広大な軍実験場―― かつての核実験場跡地に、出現した美貌の人影は――
快楽の女神。
人とは段違いのパワーを誇る、魔神――淫魔神、邪神――
少女の姿をしていた。
パワーにたぎっている。
淫乱極まりないコスチュームは、露出過剰で――悩ましい半裸の姿。
呼び出されたのだ。人に召喚されて――
「あーら つまんない生き物たち! 呼び出してくれちゃって――わたくしに何のご用? なーにが高等知的生物よ! くだらない戦争や、つまんない争いごとばかりに、うつつを抜かしちゃって、腹立つわね!! ほんと愚かだわ! あんまりタワケた行いばっかり地上でやってると、わたくしが清めちゃうわよ! そう、天地絶滅。メチャクチャに滅ぼしちゃうわ! 神がその気になったら――愛らしい神が神罰を与えるわよっ!!」
「あら? 聖者聖人のたぐいなんか、たくさん差し向けちゃって……なーに わたしをとっ捕まえる気? ふーん おもしろそうね 付き合ってあげる――」
上からの物言い。神ならではの傲慢さだ。当然とはいえ、超激烈に思い上がっている。
ヒトと神とでは、アリと恐竜ほどの力の差があるとはいえ、凄まじい高慢さで美貌は笑っていた――
見た目は美少女である。だが実力は、持てるパワーは凄まじい。
ヒトの持つパワーをマッチ程度とするなら、神の持つパワーは水爆級だった。
できる証拠に―― 神は周りに、快楽の火球を生じさせた。
苛烈な修行を積んだ高僧たちが、飲み込まれた。対抗するすべも無く――
対神用包囲、迎撃の魔法円、秘呪術の粋を凝らした模様の一角が、光に覆われ、対淫邪の聖人集団は、大地に刻まれた魔法陣が、一瞬に焼け溶けた。
神光を浴びたとたん、高僧の肉体はみるみるうちに削げ落ち、痩せ細り、噴火するかのごとく、烈火のごとく射精し、精液を出し過ぎて、先頭の僧から、死亡した。
死にゆく高僧の視覚に見えたもの。少女神の裸体は、何千何万という数に増殖していた。
悩ましい分身である。
術を受ける者にとって、全て実体。
数万とも知れぬ女神の肢体の洪水、美肉の壁が襲いかかる。豊満な乳が、たくましい尻肉が、怒涛の肉津波と化し、押し合い競り合う女肉の壁となって、僧の眼前を覆った。
ねっとりと、ねぶりの巨大な肉壁は、肉の巨波となって男僧らを呑み込む。
美肉に埋まってゆく。僧たちの肉体感覚は瞬く間に、どろどろになる。
熱い肢体に、擦られ洗われ揉まれ、とどめとばかりに巨大な膣腔が、人食いサメの口みたくガバッと開き、高僧の全身を飲み込んだ。
聖なる意志など一瞬で溶けた。
凄まじい体感は! 悟りの境地だ――溶解してゆく肉体から、死にながら全体腔が、全身の毛穴から精液を噴射した。
壮麗な嵐の渦中に、麗しき肉山に、全ての精を放った。
全体液が精液になる。わずか数十秒で。
ヒトとして味わえる最高度の快楽に溺れて、射精死したのである――
人知を超えた法悦に満ち満ちて――
過酷な修業によって創り上げられた、聖性による防御など無意味だった。
脳髄の性本能を直に握り搾り取られてゆくような、神のねぶりが数段膨れ上がった後、静まった。
淫らな光が一点に鎮まる。
あとに残るのは、乾物化した死体と、一人の全裸の美少女だけ――
* * * * * *
実験場から10キロ離れた管理棟で、女性オペレーターたちが報告する。
「体液の三分の一から40%が快楽物質と化しています。」
「快楽死しています。死因は強すぎる超快楽物質によるショック死――」
女博士が感想を洩らす。
「すごい死体ね。強力な麻薬が詰まった肉袋といったところかしら? フツーの麻薬が効かなくなったジャンキーでさえも一瞬でショック死するほどの強さ、想像を絶するほどのキツさだわ。」
* * *
ちゅうちゅう……
モニター画面上では、少女神はなおも僧らの死体を嬲っていた。
獣のように四つん這いになって、悩ましい唇が、男根を吸う。搾精の超技巧が猛威を見せる。
死んでいるのに、僧の体からは精液が出た。人知を超越した嬲りの凄まじさに、僧らの体はさらに縮んでゆく。
猛然と吸引すると、精汁が一気に吸い取られ、体がペコペコに凹み、薄くなった。
骨と皮を残し、ペラペラに平べったくなった亡骸を、ポトッと落とす。野獣の性欲だ。
監視カメラのモニターを見ていた、軍施設トップの将軍が言う。
「あやつら、まったく役に立たんではないか。さっぱり侵攻を止められんではないか。このままではここまで侵略されてしまうぞ!」
「相手は神です。対人、対魔用の聖者では元より不足ですわ。」
「ご安心ください。彼らは、いわば撒き餌ですわ。鎮神、殺神用の、秘密兵器作動はこれからです。」
神少女の周囲で、装置が作動した。
突然、砂地より金属棘が現れ、とび跳ねた。
巨大な棘が次々発条する。跳ね上がる!
神が――人の仕掛けたトラップにかかった――
地より巨大な蟻地獄の巣のようなものが現した。先端は尖る。超古代の封神装置。
金属の網が二重三重に女邪神を覆ってゆく。
メタルの繭のようになる――
棘には食虫植物の粘液のような、ねばい魔液が塗られ、食虫花に掛かった虫のように、クモの糸の粘液のように、神体を絡みとって離さない……
さらに、トドメとばかりに、対魔の針がブスリ!と、少女神の背に刺さった。
痙攣する。昆虫採集に似たポーズで、まるで磔刑だ。
神は移送された――
地下秘密施設――
壁に大音を反響させ、割れんばかりの大声で喘ぐ絶叫は――さっきまで暴れ狂っていた暴虐の少女神。
捕らえられた女神が、神液をぶち漏らし、悶え狂っていた。
極太いチューブが数本、股間に結合、いや、穴という穴に、むごく突き刺さっている。
蛇のようにうねくる、ごついパイプ群は、超特大サイズの、まるでバイブだ。
そのデバイスは、悪魔のような禍禍しい突起を生やした、生体ケーブル。汁気を帯びた――
薬品の匂いがする。
秘薬であろう。
神に対する拷問。
人がバイオテクノロジーの粋を凝らして造りだした、対魔神用の、魔性の捕獲器である。
封神の銛は、超攻撃的なデザインを、人に使えば即死する形状の、瘤状隆起が、淫らな棘皮が、凄まじ過ぎて、常人なら吐き気を催すだろう。
それらが全部、神の肉腔に詰まり、押し込まれている。
暗黒の呪文が毒々しく刻まれた肉縄が、幾重にも神体を縛る。
神が縛されている。
激烈なる緊縛である。
太古に失われた秘法――大淫の秘法、神縛術――
あらゆる神秘術を、惜しげもなく注ぎ込まれ、練り上げられた、殺神装置であった。
魔技に意識を消失させ、神肉は忘我している。
神格を失って、生ける死体に近い。
人が追い込んだのだ。ここまで――
淫神の粘液は、端子の先から、多量に噴き出していた。
ぶびぶび……
どぷどぷ…
「大量に溢れてますわね。神の愛液、分泌液、神秘の作用に満ち満ちた液が―― 歴史上の王侯貴族、世界中の大富豪たちが求めたものです。不死を可能にする――奇跡を起こす秘薬ですわ。」
「神液を集めて何に使うのです? よからぬことに? 寿命をお伸ばしに? それとも新たな神秘兵器でも造られるのでしょうか?」
「権力者が、不老不死を、永遠の健康と若さを求めるのは、自然なことだ。いや、それは必然だ。
最高の地位を得た者が、あらゆる欲望を充足させた者が、最後に願うことは、昔から相場が決まっておる。おお!この生を手放すものか!
究極の欲望は、人類とは自然の摂理に逆らう者、運命に抗う者、それが進歩じゃ、人とはそういう生き物ではないのか?」
「おっしゃる通りですわ。愚問でしたわ――
東洋に伝わる八百比丘尼の伝説をご存知でしょうか。人魚の、海の妖怪の類の肉でも、食えば不老不死になれるそうですから、神肉なら、なおのこと――美味しいでしょうね。さぞかし。――でも、食べられるでしょうか? 神肉は強すぎて、人の胃では焼けるんじゃなくって?」
女博士の指がコンソールに触れた。ボタンを押す。起動する。弁が開き、ポンプが作動する。
どく!どく!とチューブから、大量の溶液が送られて来る。それは“神殺”の猛毒。
接続された神少女の尻に、性器に、口に、ぶち撒けられた。
どくん!どくん!
さらに負荷がかけられた。二万ボルトの電圧。
煙が上がった。
無慈悲に上がってゆく。破壊のボルテージは、地震のような揺れと衝撃と振動。
失神状態の少女神の瞳が輝く。裸体は虹色の炎を上げて、奇怪な松明(たいまつ)のように、燃えはじめた。
極彩色の電光が、アーク光がきらめき、眼球がカッ!と見開き、無数に雷撃が縦横無尽に突っ走ったかとおもうと、全身がひび割れ、神体は爆発した。
殺神の劇薬に、神肉が弾けた。バラバラになった。
「なぜ破壊した!! 貴重な験体だったのだぞ!! これほどの上物は二度と手に入れられん!! 半殺しの神など――」
「嬲りものにされた神など、神では無い? 半死半生の管理された神体を、人が神を憐れんだとでもいうのか?」
「いいえ。違いますわ。」
「いいように人に使われる化学製造プラントにしようなんて、秘薬の生産装置? 儲け損ねましたか?」
湯気を上げる神肉の向こうで、凄絶に微笑む女博士。不気味な笑み。
女プロジェクトリーダーの―― 声が変わっていった。
「初めて死ねたわ。ここまで、逝ったのは――」
声は少女神に――
女神の顔に変じていた。
「協力してくれてありがと☆ お礼にイイ褒美をあげるわ!!」
爆散した神肉を、懐かしそうに摘まみながら、歩むたびに、プロポーションが凄まじくなる。次の瞬間、白衣が吹き飛んだ。爆散した。
全裸と化した女博士の肉体は“完全に”神化したのだ。
「ひ、ひい! 憑いていたのか? 転生したのか?」
「初めから憑いていましたわ。元よりこの女の知力と知識では、限界がありましたから。わたくしがいくつかヒントを与えて、プロジェクトを貫徹させたのです。」
裸体を隆起させながら女神は言った。
「自らを処刑する死神になったのですわ!」
得意気に宣言する。
「自らを追い込んだなどと??」
「一度死んでみたかったんですよね。」
裸女は深遠に微笑む。
「神体がイクときの快楽を、あなたがたにも教えてあげます。愉しいときを過ごしましょう――」
軍秘密研究機関を巻き込んだ快楽神の自慰行為――
17秒で爆発した。
研究所全体が火薬になったかのように炸裂し、巨大な肉塊火球が、半径20キロメートルにまで、急激に膨らみ、光球は膨縮し、何度も地上を磨り潰し、研究施設は分子レベルまで分解され、跡形もなく完全消滅した――
* * * * * *
夜明けの砂地に僧らが目を醒ました。
一度は死んだ僧らである。
肉体は美しく復活していた――
わたしは邪神じゃないのよ。慈悲深いのよ。勘違いしないでよね! 後生大事に生きなさい。
天の声が聞こえた。預言のごとく降ってきた。
オペレーターの女性らが身を起こした――
スタッフは全員いた。
二名がいなかった。
将軍と女博士―― 二人の行方は、誰も知らない。