未来の日本。大都会の一角。
その雑居ビル二階の一室には、暗く陰気な空気が漂っていた。
コンクリートの壁に囲まれた殺風景な室内には、鉄製のドアと、薄汚れた窓がひとつあるだけ。
そこに凶悪な面構えの男たちが詰めている。
ヤクザの組事務所であった。
むさくるしい男どもが、手持ち無沙汰に事務所に控えている。
そんな白昼、突如、侵入してきた者。
飛び込んできた人影は── 若い女。
黒いコスチュームに包まれた、全身黒尽くめの美女であった。
女は黒いタイトな極薄のスーツを着ていた。
その薄い布地を通して、はっきりとわかるもの。
それは女の素晴らしい肉体。
黒いタイトなスーツの下には、盛り上がった乳と、素晴らしく大きな尻と、引き締まった腰とが、隠されている。
極薄スーツの下から、そのいやらしい造形美を見せつけていた。
形も露過ぎるほどに。
そんな極薄スーツを着ているのは、己の肉体を男にアピールする為だとしか思えない。
ヤクザどもは、あっけにとられた。
こいつ、色情狂か。
ヤクザの事務所に、甘く匂い立つような美女とは、場違いであった。
しかも女は、場違い続きにも、こう宣言したのだ。
「ここにいる、あなた方たち全員に教えてあげるけど、」
「今日があなた方たちの命日よ」
「一人残らず死ぬのよ。助かる方法なんてないわ」
「私が、気持ちよく死なしてあげる」
涼しげな顔をして言った。
傲慢極まりないセリフを。
ヤクザたちは激昂した。
「なにィ!!」
「なんだ、てめぇ!!」
「何ぬかしやがる! ふざけんじゃねえぞ、この尼!!」
「テメェ!女一人で乗り込んで来るとは、いい度胸だなァ!!」
「わけのわかんねぇこと、ぬかしやがって! 殺っちまうぞ!!」
次々と罵声が浴びせられた。
女は武器のひとつも持っていない。
完全な丸腰だ。
第一、どうにも武器の隠しようの無い格好をしている。
武器のひとつさえも持たずに、屈強な男ども相手に、女一人、単身で勝負を挑もうとは、無謀にも程がある。
それとも素手だけで勝てる自信があるのか?
女は格闘技の師範格か?
いや、たとえ武道の達人でも無理だ。
この状況は多数に無勢だ。
女と男では、体格・体力・筋力、どれをとっても、その差は決定的だ。
ならば、何か罠があるというのか?
いや、どこにも、罠らしき細工は無い。
では、どこかに、誰か彼女を助ける者、支援者が隠れているのか?
いや、そんな協力者の姿など、影も形も無い。
この場で女が勝てる可能性はゼロだった。皆無であった。
考えるまでもねえ
ただの馬鹿だ
犯られてえんだよ。このアマは
こんな扇情的な格好で来やがって、ボロボロになるまで、犯られてえにちげえねえ
ごちゃごちゃ言ってねえで、裸にひん剥いて、犯してやりゃあいいんだ
凶悪な男たちは、眼の前の女を姦しまくることに、無言のうちに合意していた。
異論などあるはずがなかった。
「やっちまえ!!」
ヤクザ共は、飛びかかった。
全員が一人の女を襲った。
女を、数人がかりでねじ伏せて、嫌がる女を、無理矢理犯し、ものにする。
何時間も、たっぷりと嬲り犯す。
どっぷり輪姦する。
尻も乳も唇も舐め廻す。
濃厚な素晴らしい時間が味わえそうだ。
――そのはずだった。
だが、ヤクザの予想を遥かに越えた事態が発生した。
女を無理矢理犯そうと、覆い被さり、唇を奪っていた一人のヤクザの上半身が、突如、膨れだしたのである。
ぶくぶくと膨張してゆく体。
メキッ メキッ と音がする。
餅のように膨れあがってゆく。
「ぎゃああ!!!!」
三倍近くにまで腫れ上がった胴体は、バンと湿った音を起てて、無惨にも破裂した。
飛び散る肉片。
四散するヤクザの半身が、他のヤクザたちの頭の上にバラバラと降った。
「ひっ!」
爆死したのだ。
なにかの力に、結界に触れたのかのように。
ヤクザたちは、戦慄した。
突然の妖異に、ピストルを次々引き抜き、構えた。
女へと銃口を向けて。
女は悠然と立ち上がった。
「なんだ。この女は?!」
「おまえ何者だ!?」
「てめぇ魔女か!?」
「ふふ、なんとでも、おっしゃりなさいな」
「こっちへ、いらっしゃい」
女は微笑んだ。
「修羅場と暴力が三度の飯よりも好きなみなさんでしょ?
わたしがお相手しますわ。ふふ、覚悟できて?――」
「じゃ、振るうわよ。暴力」
楽しそうにそう言うと、瞬時に移動した女の右腕がヤクザの一人を殴りつけた。
吹っ飛んだ。
壁に激突した。
地響きを発てて。
張り子かなにかで出来ているかのように、大の男が軽々と殴り飛ばされたのだ。
女の繊手の一振りによって。
妖女の恐るべき一撃であった。
衝撃醒め止まぬヤクザたちの前に、間髪入れず、女が飛んだ。
その身を翻(ひるがえ)したかと思った次の瞬間には、一人のヤクザの顔面に、女の尻が激突していた。
凄まじいスピードだ。
腕が一閃、他のヤクザたちを薙払う。
一瞬の攻撃であった。
気絶したヤクザたちへ、二本の手が伸びた。
両手で二人のヤクザの腕を掴み、天井へと、放り上げる。
女が男を軽々と投げ上げた。
天板へと激突したヤクザたち、その足を掴み、今度は、ぐいと下に引く。
たちまち逆方向へ、床へと叩きつけられた。
伸びた男たちの上へと、大きな尻が、ずうん!と乗った。
尻が男を下敷きにした。
片方のヤクザの頭部を掴んで、引っ張り上げる。
部屋を貫く太い柱に男の頭を当て、その上から女は自らの巨乳を押しつけた。
大の男二人が、妖女の乳と尻によって、窒息寸前の状態になっている。
ひとりは柱と巨乳との間に頭がはさまれていた。
もうひとりは壁と尻との間に頭があった。
男の顔面を押しつけるものは柔らかな乳肉であった。
もうひとりの顔面を押しつけるものは豊かで大きな尻肉であった。
「ねえ? あなたたちのボスは、どこにいるの?」
と、女は優しい声で訊いた。
両人への、問いであった。
セクシーな詰問であった。
エロティックな拷問であった。
女は、その乳と尻の圧迫を、ぐいぐいと増し、返答を促(うなが)していた。
このままでは、窒息してしまう。
答えるしかない。
「… ムコウジマ…… NB地区だ、」
やっと、それだけを言ったヤクザは、巨乳に口を塞がれ、息も絶え絶えになっていた。
なのに男の下半身は興奮していた。
異常事態に、激しくいきり勃っている。
「そう。教えてくれて、ありがとう」
「じゃ、ラクに死なせてあげるわね」
ずん!!
巨乳に力が入った。
乳圧でヤクザの頭は爆発するようにして弾けた。
男は射精しながら死んだ。
「あら? いきながら死んだわ」
尻にも圧力をかける。
こっちは窒息死した。
惨劇の現場から、女が、すくり と、立ち上がった。
「私は女殺し屋なのよ」
その言葉に嘘は無かった。
衝撃の光景に、意思することを氷のように停止していたヤクザたちは、恐怖に、次々と拳銃を乱射した。
発射された銃弾は、女の体へ、吸い込まれるようにして、次々着弾する。
だが、女は、鋼鉄の弾丸をいくつも食らっても、平然としていた。
女の柔肌が、銃弾の嵐を、ことごとく跳ね返していたのだ。
その肌の下は鋼鉄よりも硬いのか、弾は女の体を突き破ることなく、表皮におとなしく留まっている。
めり込んだ弾など、いっこうに苦にもしない妖女。
マグナムがまるで効かないのだ。
女は超人であった。
そして――
「こんなことも、できるのよ」
もっとすごいことができることを、女がアピールしようとしていた。
ヤクザのピストルから、発射された弾のひとつが、突如、弾道を曲げたのだ。
Uの字状に、曲線状の弾道を描いて、見えない力によって、曲げられたのだ。一瞬のうちに。
180度、向きを変えて、発射した当人の方へと向かってきた。
それは物理法則を、運動エネルギーを維持したまま、その弾を発射したヤクザの顔面へと着弾した。
マグナム弾の強烈な威力に、ヤクザの頭は、バラバラに、吹っ飛ぶ。
だが、妖異は、まだ続いた。
一人のヤクザを撃ち抜いたその同じ弾丸は、高速を維持したまま、進行方向を、くい と、変えたのだ。
空中で、直角に向きを変える弾など、あるはずがない。
操っている。
女が、目には見えないパワーで操っているのだ。
妖女の超能力であった。
部屋の中を、魔法の弾丸は、次々と、直角カーブを切り、舞うように、次々とヤクザ共の頭を貫通した。
それは、数秒無い一瞬の出来事であった。
恐るべき暴力行為の後、その場に生きて立っているヤクザは、たった二人だけだった。
あとは皆死んでいた。
頭を撃ち抜かれて死亡していた。
たった一発のマグナム弾によって。
床に倒れたヤクザどもの頭の破孔から、鮮血が流れ、広がっていった。
生き残った二人のヤクザの前に、女が立った。
女の腕が、ヤクザの一人を捕まえた。
一番若いチンピラだ。
男の顔に、妖女の顔がぐっと近づいたかと思うと、いきなりキスをした。
唇に唇が触れた。
ディープキスであった。
唾液が注がれた。男の口の中に、たっぷりと。
信じられない量の唾液が流しこまれ、そして、唇が離れた。
ショックに茫然自失とするヤクザに妖女は命じた。
「あなたは、あなたのボスのもとに、今日あったことを報告しに行くこと」
「わたしのことを話すのよ。いいわね。わかった?」
艶然と、そう言って女は、片手で、大の男を軽々と放り投げた。窓の外へと。
ガラスの割れる音。
男は、窓から路上へと落ちていった。
落ちた男は、どうにか、立ち上がったようだ。
足を引きずりながらでも、恐怖の地から、逃げてゆく靴音が聞こえた――
女は振りむいた。
最後の一人に向かって。
ヤクザ最後の生き残りの一人は、惨劇の場から、一刻も早く、逃げだそうと、ドアへと駆け寄る。
「いやよ。逃げちゃ」
妖女の唇がこう漏らしたその刹那、女の眼が激光を発した。
女の眼からビームが発射されたのだ。
まるで強烈なレーザービームであった。
スチール製のドアが高熱を発し溶けて、ドアとドア枠とが、一瞬で溶接された。
開かない。ビクともしない。
高熱を帯びたドアノブを掴んだ手が、じゅうと火傷するのさえ、気づかない男は、ただ惨劇から逃れることに必死だ。
近づいてくる妖女。
「ひい、ひい、」
と、泣き叫んでいる。
恐怖に、尻餅をついたヤクザは、失禁し脱糞した。
「あら、くさい」
女は顔をしかめる。
「やだわ、汚いわね」
「わかったわ。わたしが消毒してあげる」
女の眼が、かっと見開かれた。
「ひいいい!!!!」
恐るべき女の眼が、男を見入った。何か見えない光線が飛ぶ。強力な殺人光線の猛射。
男の体から炎が吹き上がった。
人体発火現象であった。
のみならず部屋中のものが炎を吹き上げ出した。
女が、強力な視線の一瞥(いちべつ)を振っただけで、机が椅子が備品が床が壁が天井が火を吹いた。
そして、魔女の体自体も燃え出す。どろどろに溶けだした。
体からロケットのように炎を噴き上げる女が、火焔に包まれて、妖女は艶やかに笑っている。
溶けながら、笑っている。その笑い声は、ふしぎと爽やかだった。
部屋は炎に包まれた。
炎が荒れ狂い、爆発した。
…………
…………
事件現場は、ただの火災として処理された。
火の不始末から全員焼死と報告された。
その夜――
遺体袋から、抜け出したもの。
黒いどろどろとした塊が、むくりと起きあがり―― 岐立した棒状の物は、その姿を、ぬるぬると変えてゆく。
それは、なにか別の姿へと変わろうとしているようだ。
みるみるうちに人へと変じた。
きらりと光る玉のような白い肌が現れた。
つややかな黒髪が広がる。
裸体から、豊満な肉の盛り上がりが隆起した。
ぬらぬらと濡れ光る肌を輝かせて、立ち上がった者。
女であった。
先ほどの美女であった。
これが一度死んだ女なのか。
その身には傷ひとつ無い。
驚異の再生力であった。
いや、先程の焼死は、妖女自身の人体発火は、死体のふりをしただけであって、死んだ訳では無かった。
その姿を変えていたに過ぎない。
ただの演技であった。
ちょっとした、擬態に過ぎなかった。
少しばかりのあいだ、「焼死体」の姿に化けて、現場検証の間―― 変身していたのである。
女は足取りも確かに、街へと向かった。
行き先は、今回の仕事の依頼人のところであった。
歩く女の白い裸体の上を、服がするすると覆っていった。
それは先程の黒い極薄コスチュームであった。
その頃――
惨劇の現場から、唯一脱出できたヤクザの生き残りが、やっとボスの元に、辿り着いていていた。
恐怖に震えながら必死に報告した。
今日起きた惨劇を、顔をクシャクシャにして、泣きながら、しゃべった。
「突然、事務所に変な女が押しかけてきて、そいつが自分は殺し屋で、ここにいる全員を殺す、なんて言いだしやがりまして、バカじゃないかと思ってやしたら、そいつ、おかしいんです…! ほんとうに魔女なんです!!」
「お信じにならねえでしょうが、不思議な力でメチャクチャにして、信じられねえほど強くて、兄貴が、奴に睨まれた途端、兄貴の体が、突然膨れだして、風船みたいにパンパンに膨れあがった兄貴は、兄貴は、……ああ!!弾けちまったんです!!」
「うわああ!!」
それだけ言うと手下は泣き出した。
周囲は沈黙していた。
だがボスは、注視していた相手の泣き声に変化が生じたことに気づいた。
「あっあっあっ!」
「おわあっ!!ひぶわッ!!!!」
ボスの目の前で、それが起きようとは――
予想だにしない事が起きた。
手下が語ったその通りの超常現象、その通りのことが、目の前で再現される。
必死に、しゃべっていた手下の体が、ぶくぶくと膨れ、上半身がゴムボールのように膨張し、胴が膨れ上がったかと思うと、一気に弾けたのである。
男の体は爆発した。
四散する男の胴体。
何が起きたのか?
一人生き残ったヤクザの身に何が起きたというのか?
男の口の中に、キスと同時に妖女の細胞が、入り込んでいた。
それは強力なパワーを秘めた細胞であった。
人一人ぐらい弾かせるのは訳も無いほどのパワーを持っていた。
ボスの元に報告しに行かせ、所定の目的を果たしたところで、頃合を図って、目の前で爆死させたとは、ヤクザたちには知る由も無かった。
「あの男、死んだわ」
ラブホテルの一室で、全裸の女が言った。
尻は後ろから犯されている。
逞しい男の太い男根が尻を深々と突き刺さしている。
女の白くて大きな尻は、男のものを深々と呑み込んで、ねっとりと結合し、こねくり廻していた。
肉同士が打ち合う、いやらしい音が部屋中に響く。
部屋には凄まじい生気が満ち満ちていた。
今夜の男がこの件の依頼主であった。
ベッドでの“男側”の奉仕は、この殺しに支払う報酬に含まれていた。
妖女は、男の体を、ペニスを、精液を、真っ先に欲したのである。
尻を男に預けつつ、理解していた。状況を。
人の頭の中もだいたい分かる。周囲の者から、遠くの標的まで。
犯られながら理解していた。感じていた――
最後の一人を最終処分したことを。
分身たちに命じて、標的をバーストさせた。
それと同時に、いった。
快感だった。
“力”を使いながらのセックスは燃える。
殺しとセックスの同時行為は、最高だった。
ベッドの上で、男に貫かれてアクメへと昇りつめる。
昂ぶりの余り、声が洩れる。
男の指に乳を揉みしだかれながら、絶頂した。
男の汁が、たっぷりと体内へ注ぎこまれるのを感じて、深く満足した――
男に尻を貫かれている女が、ベッドで汗と生汁にまみれ、身悶えしている女が、ホテルで素晴らしい尻を与えている美女が、遥か遠くの男を殺したなどと、誰が信じるだろう。
遠方の標的をも確実に殺せる程の、凄まじい暗殺能力を持つなどと、誰が思うだろう。
遠隔操作しながらの最終処分。いきながらの暗殺実行。
凄すぎる能力だった。
とてつもない殺人能力であった。
とんでもない女殺し屋だった。
興奮醒め止まぬ、上気した表情のままの女に、男は訊いた。
「おまえ、女なのか?」
「女よ。いちおうはね」
なんだと? こいつは、姿形まで自在に変えられるというのか?
年、格好、性別まで、その姿は、思うままらしい――
「安心して。女として生まれたわ―― そしてこの体が大好きだから、女の体をしているの」
「でも、別になろうと思えば、どんな体にも、いえ、どんな存在にもなれるのよ」
こいつは、とんでもない女だ
――いや、オレは、とんでもない化け物と、やっているようだ
ま、別に構わんが――
熱い裸体を抱き締める。
「どう、私のお手並みは?」
「すごいぞ。期待以上だ。というより、凄すぎるぞ」
「お次は? まだオーダーを伺(うかが)ってなくってよ」
超常女殺し屋は、魔女であり、生体兵器であった。
そして凄まじい超能力の持ち主であった。
力も強い。男以上だ。人間離れしている。
化け物である。超人であった。
悪魔か魔物か、何か人外の者共と戦わせて、ちょうど釣り合いがとれる。そのくらいの強さを誇っている。
だが、シーツの上では、戦慄の殺戮美女は、しどけない姿を晒し、涼やかな、したたるような媚声で、
「うふふ、あなたの男の武器もなかなかのものだったわよ。量もたっぷり」
「ありがとう。満足させてくれて―― よかったわ。大好きよ。素敵な男の人とのセックスは、ね」
そう言うと、女は、逞しい男の上半身に、白くて細い腕をクモのように巻きつけて、指先で男の分厚い胸板の乳首をいじった。
「早く契約を履行したいの。体がいっぱい殺しをしたくってウズウズしてるの。もっと使役してくださいな。ターゲットを沢山与えて頂戴―― マスター(ご主人様)」
「では、外国に行ってもらおうか…………」
あくる日の午後、真夏の太陽の光が燦燦と降り注ぐシチリア島に、美女はいた。
居並ぶ凶悪な面構えのマフィアたちの存在にも、全くひるむこともなく、それどころか、存在にすら気づかないという表情は、石ころでも見るように、まるで無視する勢いで、踏み込んでいったのである。